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井上陽水の歌詞を読む。

いま手元に91年版、明星デラックスの「歌の世界」という本があります。この本は歌手別ヒット曲として各時代の流行歌の歌詞と、それに付属して簡易的なコード進行がかかれているのですが、カラオケ文化が爆発的に広がり出した90年代中頃まではこういった歌本で歌うのが一般的だったのでしょうか。本の最初の方のページにはHot Hit Selectionという特集が組まれ、その年の最新ヒットアーティストが載っているのですが、たま、中森明菜、米米クラブ、WINKと時代を感じさせるラインナップになっています。

そんな本のページをペラペラと何を探すでもなくめくっていたのですが、流行歌にありがちな、なんてことのない歌詞が多い中、目に留まったのが井上陽水の歌詞でした。僕は井上陽水の楽曲はコマーシャルで流れて知っている程度でしたが、それでも「少年時代」「リバーサイドホテル」「夢の中へ」は歌詞を見るだけでメロディが浮かんできます。その中で特に「リバーサイドホテル」の歌詞の面白さに興味を惹かれました。

歌詞全体に漂うロードムービー感。行く当てもない二人がバスに飛び乗って旅立つ世界観はビートニクやアメリカンニューシネマに近いですが、路上のサル・パラダイスが最後にはメキシコを目指したのに対し、島国である日本は地続きの新天地がないため逃げ出すことができません。その退廃的な雰囲気、結局どこへも行けない鬱屈した空気感が旅の歌なのに希望、ある いはそれに変わる何かを与えてくれません。曲もサビ部分の歌詞は、バスから眺めるネオンの字で書かれている案内を繰り返すだけ。そのネオンにはこう書いてあります。

ホテルはリバーサイド
川沿いリバーサイド
食事もリバーサイド
oh リバーサイド

意味があるようで全くない、あるいは意味がないようでありそうなこの歌詞とどこへも行けない閉塞感、マイナーの曲調と全く開放感のないラテン風のリズム。それらが「誰も知らない夜明けが明けたとき」「川沿いリバーサイド」「金属のメタル」など意味の重複を何度も使った人を食ったようなユーモアの混じった歌詞とあいまって不思議な世界観をつくっています。アメリカのヒッピーたちは実際にあるパラダイスへと肉体的に移動を成功させたのに対し、海に囲まれて逃げ場の無い日本ではユーモアや精神世界という空想上のパラダイスにしか移動できなかったのでしょうか。

これまで洋楽ばかり聴いてきて、あまり日本の曲や歌詞の世界に注意を払ってきませんでしたが、それらの中にも面白いものがありそうなのでまずは日本のニューミュージックあたりの年代から聞き直していきたいです。

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